能力はどのように遺伝するのか

・ヒトの遺伝子は30億の塩基対からなる。ということは、0.1%しか違わなくとも、300万か所に個人差があるということだ。4万の構造遺伝子上のSNPに限って考えて、仮に1か所の塩基に4種類の多型しかなくとも、4の4万乗の組合せがある。これはゼロが2万4000個ほど並ぶ巨大数となる。地球にはいま80億の人がいるが、これはゼロが9個である。もし1000億年としても11個だ。毎年入れ替わっても両者を掛け合わせた20個前後にすぎない。

・「顔立ちの魅力」という漠然とした主観的な評価についてみると、どんな美人やイケメンにも、魅力を欠いた表情をする瞬間があるし、美しさやかっこよさからほど遠いと思しき平凡な顔立ちの人でも、魅力的な表情をする瞬間がある。それは、その人が何を行い、何を考えたり何を感じたりしているかによる。その瞬間的個性の連鎖と集合が、その人の存在そのもの、生き様そのものである。

・たしかに遺伝は、能力の個人差と、それが引き起こす社会的格差の原因となっている。そして、それを解決する術を人類は思いつくことができてこなかったから、当面ないことにしているのである。それは言い換えれば、遺伝が原因であれば差別してもよい、差別されてもしかたがないという優生思想が、人々の心の奥底に眠っていることを意味する。

・遺伝について語ること自体をタブー視する風潮は、依然として根強いものがある。かくして遺伝は、パンドラの箱の中にしまい込まれたままである。